日給10万の結婚
「私圭吾さんと結婚したかったです」

「あはは、玲さんに聞かれたら叱られます」

「圭吾さんの爪の垢を煎じて飲ませたい」

「大げさな」

 笑ってるけど、これ結構本心なんだけどなあ。圭吾さんってなんでも出来るし優しいし、横暴男とは正反対な人間だ。結婚するならこういう男がいい。自分は元カレは浮気するやつだったし、実際結婚したのは性格悪い男だし、男運がないと見た。

 いやいや、三千万。玲は三千万の恩があるんだから。

 ため息をついていると、リビングのドアが開かれた。スーツを着た玲が中に入ってくる。彼は私の存在に気が付くと、腕を組んで上から下まで観察する。やや緊張しながら評価を待った。

 玲は一つ頷く。

「まあ、合格点」

 胸を撫でおろす。まあ一流のエステや美容室に連れて行ってもらい、金のかかったドレスやアクセサリーを身にまとっているのだ、不合格では困る。

 だが多分、一番自分を変えたのはやはり畑山さんのレッスンだと思っている。立ち方一つでもここまで印象を変えるのかと驚いた。あの人の教えはさすが凄い。

「よし舞香、準備はいいよな。行くぞ」

「わ、わかった」

「圭吾に運転してもらうから。まず車に行くぞ」

 私は慌てて最後に洗面所に入り最終確認を行う。メイクは大丈夫だよね、持ち物もいいかな。髪型も崩れていない。

 あわあわする私に、圭吾さんがひょいっと顔を出す。そして笑顔で言ってくれた。

「大丈夫ですよ、本当に完璧ですから。自信持ってください」

 優しい笑みに、ほっと力が抜ける。これ、普通夫である玲の役割ではないのか。緊張してる妻をフォローしやがれや。私は頷き、ついに鏡の前から離れた。

 玄関でヒールを履く。実のところ、ヒールさえもこの結婚前はあまり履いたことがなかった。畑山さんの指導の下練習させられやっと慣れてきたのだ。

 玲は緊張した様子もなく靴を履き終え私を待っている。余裕綽々なその態度がなんだか鼻についた自分は、履きながら小言を漏らした。

「もう、普通緊張してる妻の心をほぐすために優しい言葉の一つもないもんですかね」

「お前緊張してんのか」

 目を丸くして言って来たので、私も目を丸くした。何を言ってるんだこの男は。

「いやそれ気づいてなかったの? 嘘でしょ?」

「舞香に緊張するなんて繊細さがあったことに驚いてる。お前そんな人間だった?」

「私の何を知ってんねん」

「なんで急に関西弁なんだよ」

「そりゃついに決戦の日なんだから緊張するよ! 絶対ご両親に睨まれること分かってるしさあ!」

「男に二股掛けられたその日にヤクザに連れてかれそうになっても堂々としてた女のくせに、今更繊細ぶってんじゃねーよ」
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