日給10万の結婚
「もうご両親はいるの?」

「いる。俺が入籍したってことが耳に入って、発狂してた」

「そりゃするだろうね……」

「今日紹介するって言っておいたから、あっちも今頃そわそわしながら待ってるぞ」

「気が重い」

 隣を見上げると、私とは反対に、玲は涼しい顔をして歩いていた。高級そうなスーツに身を包んだ玲は、悔しいがそこいらを歩いている男とは全くレベルが違う。幼少期から培った気品やオーラは、私には簡単には出せない。外に出れば、玲はやはりとんでもなくいい男なのだ。

 ただし、性格に難あり。ここ重要だからね。

 がやがやとした賑やかな声が耳に届いてきた。一番奥で開かれた大きな扉の向こうが、どうやら今日の戦場のようだった。きらびやかな照明と、多くの人々が視界に入る。玲の腕を持つ手に力が入る。

「さ、お前の腕の見せ所」

「こっちの台詞」

 そう最後の言葉を交わしたと同時に、私達は会場に足を踏み入れた。
 
 途端、騒がしかった騒音が一瞬止んだ。何十という目が私たちに注目するのを感じた。

 たくさんの人たちがいる。老若男女、着飾った人たちは一斉に私たちに注目している。小さな子供だけが、周りの様子を不思議そうに眺めている。

 震えそうな足を必死に堪えた。大丈夫、私は玲の妻なんだから、堂々としていればいい。

 玲は怯えた様子もなく、ゆっくり会場の真ん中を通っていく。誰一人声を掛けなかった。私たちに道を譲る様に移動して行く様は、まさにモーゼの海割りのようだった。

 人々の中を通り、会場の一番奥へと足を運んだ。そこで立っていたのは、玲とどこか似た男女だった。男性は厳格そうに眉を顰め、しっかり口を結んだ、すらりとしたイケおじだ。その隣に、非常に冷たい目をしてこちらを見つめる女性。紺色のスーツが非常に似合う、上品な女性だ。だが、その視線はあまりに色がない。

 だよなあ、そういう表情だよなあ。私は心の中でため息をついた。

 玲は彼らの前に立つと、ニコリと笑って見せた。
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