日給10万の結婚
 玲が微笑む。

「こんにちは、どうもお騒がせして申し訳ありません。妻です」

 私はしっかり胸を張って堂々と答えた。

「初めまして、妻の舞香と申します。風沢社長にはいつもお世話になっております」

 そう挨拶をすると、相手は驚いたように目を丸くした。そして、わざとらしいほどに大きな声で答えてくれたのだ。

「とてもお綺麗な方だと思いましたが、こちらの事も知っていてくださるとは。聡明な方ですね、風沢と申します。いつもお世話になっております」

 差し出された右手をホッとして握った。優しそうな人だ、と思った。さらに風沢さんは、玲のご両親に向けても話しかけてくれる。

「この度はご結婚おめでとうございます。噂には聞いておりましたが、とても素晴らしい女性のようですね」

 二人とも複雑そうに、しかし否定するわけにもいかず引きつった笑顔で対応する。それを合図とするように、わっと人々が私と玲に集まってきた。玲はその一人一人に丁寧に私を紹介する。私は何度も挨拶を繰り返す。あらかじめ教わっていたので、ほとんどの人が誰なのか、どういう会社なのかを理解しながら話を進めることが出来たので、相手の表情を見るに反応はそこそこいいようだった。

 ただそんな私たちを、両親たちはじっと後ろから観察していたことに気が付いていた。

 実は玲のお父さんもお母さんも、まだ声を聞いていない。私たちが挨拶したのを返されることもなく、ただ黙っていたのだ。なので、いまだに会話を交わしたとは言えない。

 まあ、今日会ってすぐに受け入れられるとは思っていないので気にしていない。勝手に入籍しただなんて、そりゃご立腹も納得。親子の縁を切られなくてよかったね、ぐらいだ。
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