日給10万の結婚
落ち着け、落ち着くんだ自分。私たちの関係を第三者から見てみよう。普通に考えて、婚約者がいたにも関わらず突然他の女と結婚してしまった玲は非道どころの騒ぎじゃない。それに伴い、私の立場だって同じようなものになる。男を横取りした女、という感じか。
うんそうだ、それが一番私たちの印象に相応しい。楓という人が来てしまうと、それが引き立ってしまう。
だが玲は凛として言った。私の腰に腕を回したままだ。
「楓さん。私は何度もあなたに言ったと思います、結婚は出来ないと。それを受け入れられず今に至りました。非常識と分かってはいましたが、強行突破してしまいました。あなたに失礼な事をしてしまったと思います。それは深くお詫びします」
玲の謝罪に、楓さんは何も答えなかった。口角を柔らかく上げたまま、私たちを見ている。だが目の奥に何か恐ろしい怒りを感じた気がして、少しだけ背筋に寒気が走った。だが玲はなお続ける。
「悪いのは私です。全て強引に進めたのは私一人。彼女は殆ど何も知らなかったので、恨むなら私を」
玲の発言を聞いて、楓さんの目がすうと細くなった。そして甲高い声で言ったのだ。
「そんなあ! 恨むなんて、ありえないですよ。玲さんが幸せならそれでいいんです。私がいたらなかったせいですから……ああ、でもお会いしたかったんです結婚相手の方! 舞香さん、とおっしゃいましたっけ、会えてとっても嬉しいです、仲良くしてください!」
楓さんはそう言って、突然私の手を掴んだ。あまりに急なことだったので驚いたが、まさか振り払うわけにもいかないのでそのままでいる。
ただ、握られた力が非常に強い。無意識なのか、それとも?
まさか元婚約者と会うとは思っていなかったので、対応に困り混乱した。恐らく、会場の人たちは楓さんに深く同情しているだろう。このままでは、玲と約束した『完璧な妻』になるには程遠くなる。
私は目の前の女性をじっと見つめた。彼女もしっかりと見つけ返してくる。
この人は分かってやっているんだろうか?
今、私はどんな返事をしても正解などないことを。男を横取りした女が、その元婚約者にどう声を掛けようと周りから見れば嫌味に聞こえてしまう。
謝ろうが、お礼を言おうが、泣こうが怒ろうが、何を発しても私は『嫌な女』に成り下がる。それを楓さんは分かっててやっているのだろうか? もしそうだとしたら、とんでもない策士である。
私は握られた手を握り返した。強くなんてしない、常識内の力だ。ちなみに向こうは手がちぎれそうなぐらいの力だが。
そして泣きそうな声を演出しながら、私は答えた。
「なんてお優しい……こんな優しい方と会えて驚いています。楓、さんでしたね。優しいお言葉本当にありがとうございます」
感激した声で彼女に言った。今はこのほかに許される発言はないだろう。
とりあえず相手を賞賛しておけ。お礼を言っておけ。ここでバトルを開始してもこっちは勝ち目はなし、今は下手に出るしかないのだ。仲良くするなんて言葉には返事をするな。
私の発言を聞いて、彼女は一瞬笑みを消した。本当にたった一瞬の出来事だったが、その真顔に相手のすべてが詰まっている気がした。
好意なんて本当はないよね。そりゃそうだ。
手を握ったままお互い固まっていると、ここで初めて玲のご両親の声が耳に入ってきた。二人とも申し訳なさそうに金城夫妻に声を掛けている。
うんそうだ、それが一番私たちの印象に相応しい。楓という人が来てしまうと、それが引き立ってしまう。
だが玲は凛として言った。私の腰に腕を回したままだ。
「楓さん。私は何度もあなたに言ったと思います、結婚は出来ないと。それを受け入れられず今に至りました。非常識と分かってはいましたが、強行突破してしまいました。あなたに失礼な事をしてしまったと思います。それは深くお詫びします」
玲の謝罪に、楓さんは何も答えなかった。口角を柔らかく上げたまま、私たちを見ている。だが目の奥に何か恐ろしい怒りを感じた気がして、少しだけ背筋に寒気が走った。だが玲はなお続ける。
「悪いのは私です。全て強引に進めたのは私一人。彼女は殆ど何も知らなかったので、恨むなら私を」
玲の発言を聞いて、楓さんの目がすうと細くなった。そして甲高い声で言ったのだ。
「そんなあ! 恨むなんて、ありえないですよ。玲さんが幸せならそれでいいんです。私がいたらなかったせいですから……ああ、でもお会いしたかったんです結婚相手の方! 舞香さん、とおっしゃいましたっけ、会えてとっても嬉しいです、仲良くしてください!」
楓さんはそう言って、突然私の手を掴んだ。あまりに急なことだったので驚いたが、まさか振り払うわけにもいかないのでそのままでいる。
ただ、握られた力が非常に強い。無意識なのか、それとも?
まさか元婚約者と会うとは思っていなかったので、対応に困り混乱した。恐らく、会場の人たちは楓さんに深く同情しているだろう。このままでは、玲と約束した『完璧な妻』になるには程遠くなる。
私は目の前の女性をじっと見つめた。彼女もしっかりと見つけ返してくる。
この人は分かってやっているんだろうか?
今、私はどんな返事をしても正解などないことを。男を横取りした女が、その元婚約者にどう声を掛けようと周りから見れば嫌味に聞こえてしまう。
謝ろうが、お礼を言おうが、泣こうが怒ろうが、何を発しても私は『嫌な女』に成り下がる。それを楓さんは分かっててやっているのだろうか? もしそうだとしたら、とんでもない策士である。
私は握られた手を握り返した。強くなんてしない、常識内の力だ。ちなみに向こうは手がちぎれそうなぐらいの力だが。
そして泣きそうな声を演出しながら、私は答えた。
「なんてお優しい……こんな優しい方と会えて驚いています。楓、さんでしたね。優しいお言葉本当にありがとうございます」
感激した声で彼女に言った。今はこのほかに許される発言はないだろう。
とりあえず相手を賞賛しておけ。お礼を言っておけ。ここでバトルを開始してもこっちは勝ち目はなし、今は下手に出るしかないのだ。仲良くするなんて言葉には返事をするな。
私の発言を聞いて、彼女は一瞬笑みを消した。本当にたった一瞬の出来事だったが、その真顔に相手のすべてが詰まっている気がした。
好意なんて本当はないよね。そりゃそうだ。
手を握ったままお互い固まっていると、ここで初めて玲のご両親の声が耳に入ってきた。二人とも申し訳なさそうに金城夫妻に声を掛けている。