日給10万の結婚
 玲のご両親を筆頭に、金城さんや何人かの金持ちたちは、嫌悪感で溢れた顔で私を見ていた。その時、ようやく自分の格好を思い出した。

 乱れた髪に脱ぎ捨てたヒールと素足、伝線したストッキング。そして、吐瀉物まみれのドレス。


……しまった。


 無我夢中で行っていて、まるで自分の姿を忘れていた。こんなぼろぼろの格好になるなんて。今日は大事なパーティーで私のお披露目会だったというのに、この格好。いや、かといってあの子を見殺しになんて絶対に出来なかった。私が行ったことは間違いじゃない。

 それでも――この二週間必死に行ってきたレッスンが、私のドレスやアクセサリーをそろえてくれた玲の努力が、励ましてくれた圭吾さんの優しさが、全て無駄になってしまった気がした。

 呆然としてしまっている私を、遠くで楓さんが声を押し殺して笑っていた。そして、ハンカチで口元を抑え、いかにも汚物という扱いでこちらを見た。

「あ、えっと、すみません、せっかくの……」

 慌てて謝ったが上手く言葉にならず唇が震える。混乱でどうしていいか分からずパニックに陥っていると、突然自分の体に誰かの上着が掛けられた。はっとして顔を上げる。

 玲だった。

 彼は真っすぐな目で私を見ていた。そして、次の瞬間私の体を軽々と抱き上げた。ふわりと全身が浮き、驚きで声すら失くす。玲は母親に言った。

「もうすぐ救急車は来ると思います。もう大丈夫ですね?」

「は、はい、ありがとうございます!」

 私は抱きかかえられたまま、玲に言った。

「玲、玲の服まで汚れちゃう」

 そんな私の言葉を無視し、彼は周りをぐるりと見渡して言った。
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