日給10万の結婚
 じんわりと涙が出た。

 少女が助かってよかった、その気持ちは揺るぎないし、自分を誇らしく思う。それと同時に、振り返った時のあの目が忘れられない。必死に頑張った自分とあの女の子を蔑むような、恐ろしい目が自分を酷く苦しめる。

 何より、玲に申し訳ない。

 ついに涙が零れそうになった時、突然玲が私の前にしゃがみ込み、ぐっと顔を寄せた。そして、きっぱりと断言した。



「お前はあの会場の中で、間違いなく一番いい女だった」



「…………え」

「間違いなくだ。救命行為をして汚れた服を嘲笑うクソみたいな人間なんて気にしなくていい。あの中にも、ちゃんとした人間は多くいる。そいつらは舞香を賞賛の眼差しで見ていたことに気づかなかったか? ゲロまみれで何が悪い」

「でも、一番肝心なお義父さんたちが」

「何も気にしなくていい。ていうか、想像以上の働きっぷりだ。俺はお前を称えたい、さすが看護師だな。度胸もあるし判断力もすさまじい。お前がいなけりゃあの子、死んでただろ」

「…………玲が励ましてくれるなんて、変」

「馬鹿、励ましじゃない、状況を冷静に分析してるんだ。俺は嘘は言わない、舞香は今日一番いい女だった」

 普段私の事を馬鹿にしてばかりの男からの優しい言葉は、酷く自分の胸に突き刺さった。はらりと涙が零れる。これはうれし泣きだ、玲がそう言ってくれたのなら心強い。

 私が一番いい女だった、なんて、普段の玲からは考えられない褒め言葉だもの。

「泣かなくていい。ていうかこんなことで泣くのかよ、お前あんだけ気が強いくせに」

「だって、今まで頑張ったのが全部台無しになっちゃった気がして。でも玲が励ましてくれたから、これはうれし泣き」

「だから励ましじゃねえって。悔しいけど立ち振る舞いも対応もパーフェクトだったんだよ。楓の出現は予想外だったが、ちゃんと臨機応変に対応できてた。やっぱりお前を選んでよかったよ」
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