日給10万の結婚
 そんなことを言ってくれるけれど、これが励ましでないわけがない。落ち込んでいる私を何とかしようと彼なりに思ってくれているのだ。その優しさにハラハラと涙を零した。玲は困ったように眉を顰め、不愛想に言った。

「泣き止め、とりあえずシャワーに行け。その間に圭吾が着替えを持ってきてくれるだろ」

「うん、ありがとう……」

「ほらファスナー」

「ぎゃっ! だからそんな下の方まで下ろさなくてもいいってば変態!」

 いつかのように思いきりファスナーを下まで下ろされ、私は慌てて立ち上がった。そのままシャワールームに向かい、先に体を綺麗にさせてもらった。

 汚れてしまったドレスを優しく置き、とりあえず体だけでも綺麗にしよう、とお湯を出す。全身に熱さを感じると、頭が冴えていくような感覚になった。

 玲がああ言ってくれたんだから、励ましでもなんでも素直に受け取ろう。私は恥じるようなことをしたわけではないし、堂々としていればいいんだ。

 それにこれは終わりじゃない、間違いなく始まりなのである。これからやっと玲の妻として行動していくのだ。落ち込んでいる暇などない。

 一年。私は三千万の働きをするんだ。






「そんなことがあったんですか!? 舞香さん、お疲れ様です……大変でしたね!」

 帰りの車中、圭吾さんが哀れんだ声を出した。私と玲は並んで後部座席に座りながら、会場で起こった出来事を話していた。

 私ははあとため息をついて言う。

「女の子を助けられたのはよかったですけどね。自分のナリはあんな感じになっちゃって……ご両親はドン引きしてましたね完全に」

「気にすることないですよ。舞香さんは立派なことをしたんだから、胸を張るべきです」

 圭吾さんがきっぱり言い切ってくれたので、また自分の胸はすっと軽くなった。玲にも圭吾さんも言われると、なんだか心強いな。

 ほっとしている私を置いて、圭吾さんはハンドルを握りながら言った。
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