日給10万の結婚
 自信満々に言ってくれるが、こちらは戸惑いでいっぱいである。だがまあ、玲の言うことは一理あるし、私も相手をおだててヨイショしながら気に入られるなんて性に合っていない。とはいえ、戦う相手が急にラスボスだもんな……せめてレベル上げさせてくれよ。

 だがしかし圭吾さんすら納得してしまう。

「それは言えますね。舞香さんの魅力は楓さんとは真逆なところにあると思います。いいところを引き出して見せつけた方がいいです。大丈夫ですよ舞香さん、これだけ頑張り屋で凄いお人なんですから、ご両親もきっと分かってくれます」

 バックミラー越しにニコリと笑ってくれた。ああ、いつでもほしい言葉をくれるのは圭吾さんだ。優しいし穏やかで、玲にはない物を全て持っている。うっとりと拝んだ。

「圭吾さんの優しさが玲にもちょっとは移りますように」

「何言ってんだ馬鹿、俺は優しいだろ」

「どこがよ、いつも散々言ってるけど玲は人としてのデリカシーと優しさが足りないよ!」

「お前には俺の良さが理解できないんだな、早くここまでステージを上がってこい」

「どこのステージよ……絶対ロクなステージじゃないじゃん……」

 私たちが機嫌悪い顔で言い合っていると、圭吾さんが大声で笑った。ハンドルをしっかり両手で握ったまま、彼は非常に楽しそうに言う。

「なんだか二人とも夫婦っぽくなってきましたよね、凄くお似合いです」

「どこが!」

「なんで!」

「そういう息ピッタリなところがですよ。さ、もう少しで着きますよ」

 私と玲は絶対に息ピッタリなんかではないし、あの男は相変わらず性格悪い。いつだってこっちを見下して馬鹿にしてくるんだから。

 だが、ふと心の中で思い出す。私がパーティーで失敗したと思って落ち込んでるとき、一番いい女だった、って言ってくれたのは、ちょっとだけ嬉しかったしかっこよかったなあ。皆の前でもびしっと言ってくれたし、正直あれだけは見直した。

 ちらりと隣を見てみる。玲は窓の外を眺めていた。そこで、大きなあくびをし眠そうにしている。私は彼の顔を覗きこんだ。

「そういえば玲、最近ちゃんと寝てる?」

「え?」

「ここ最近仕事忙しそうだよね、あまり寝てないでしょ」
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