日給10万の結婚
 あのパーティーが終わって以降、玲は仕事の繁忙期に入ったのか、夜寝る姿を見なくなった。私が先にベッドに入り、起きたときは玲はすでに起床している。私には『睡眠は美容にも頭脳にも欠かせないから早く寝ろ』と口うるさく言うくせに、当の本人は夜遅くまでパソコンを見ていたりする。

「ああ、まあ……ちょっとバタバタしててな」

「せっかくの休みなのにゆっくり出来ないしね。帰ったらゆっくりしてね」

「うん、そうする」

 こういうどうでもいい会話が、どこか私たちの関係を柔らかくした証明だ。パーティーの一件以来、彼の口の悪さは変わりはしないものの、私は少し見直してしまったので、態度が柔軟になったのだ。そして玲自身も、私の救命行為に本当に感心してくれたのか、同じように変化している。

 圭吾さんが言うようにお似合いだとは到底思えないが、まあよき戦友ぐらいにはなっている気がする。

 玲はめちゃくちゃでデリカシーがない人間だが、ちゃんと私の味方をしてくれるし、褒めるところは褒めてくれる。

 今更ながら、彼は悪い人じゃないんだな、と再確認したのだ。

 あの日、汚れた私に軽蔑の眼差しを向ける事もなく、それどころか抱きかかえ、一緒になって汚れてくれた。そして私を褒めたたえてくれて、励ましてくれた。

 正直なところーーあれでどれほど救われたか、分からない。



 
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