日給10万の結婚

 そのままダイニングと思われる場所に辿り着いた時、私と玲は一瞬足を止めた。そこには想像していない画があったからだ。

「ああ、玲、やっと来たの」

 不愛想にそう言ったお義母さんの隣りに、見覚えのある顔があったからだ。

「あ、玲さーん。お邪魔してまーす!」

 メロンを揺らしながら、彼女は笑った。

 ぽかんとした。なぜ、なぜ楓さんがいるんだ? 

 ダイニングテーブルには、お義父さん、その向かいにお義母さん、そして隣にぴったり楓さんが座っていたのだ。家族で食事ということではなかったのか? もう婚約者でもない楓さんがどうしているのだろう。

 玲は手で顔を覆ってため息を漏らした。

「なんで楓さんがいるんだ」

「あら、あなたの都合で勝手に婚約をなしにした彼女には、精一杯誠意を持って接してもらわなくては。そうでなくても、彼女は私と仲のいい友人のようなものですから」

「お母様、友人だなんて嬉しいです!」

「あなたは気が効くし家柄も問題ないし、玲の結婚相手にぴったりだったんですけどねえ」

 二人は同時に私を見上げた。鋭い目が四つ、私を突き刺す。

 ああ、そうですか、そう来ますか。私はピクピクと頬が引きつっていた。

 結婚に反対されるのは分かり切っていたからいい。でも、これ見よがしに元婚約者を連れてきて顔合わせをするだなんて、あまりに悪意の塊ではないか? 玲が私を結婚相手に選んだ理由をここに来て痛感した。こりゃ普通の女なら耐えられない、泣いて帰ってしまうだろう。特に、玲の事を本当に好きで結婚した女ならば。

 だが生憎、私が結婚したのは玲が好きだからではなく、三千万のためなのだ。この前のパーティーではちょっと落ち込んだ瞬間もあったけど、今回はそうはいかない。今日は周りの目もないし、玲から戦えとの許可が下りている。先日、玲から褒めてもらったことで、私は自信を手に入れたのだから。

 こんな出迎え方、むしろ燃えるってもんよ!
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