日給10万の結婚
「とりあえずお前たちも座りなさい。この前はゆっくりお話できなかったからね、今日は玲たちと話そうと決めたじゃないか」

 促され、玲はお義父さんの隣りに、そして私はその玲の隣りに腰かけた。正面に敵意に満ちた女二人の顔がある。ああ、恐ろしい。

 持ってきた手土産を渡してみるが、興味なさそうにどこかへ適当に置かれてしまった。まあ、想定内だ。

 席に着いたとほぼ同時に、シャンパンを持った圭吾さんが入ってきた。そして一人一人のグラスにシャンパンを注ぎだしたのだ。まさか家の中で圭吾さんに会えると思っておらず、私は心がほっと落ち着いたのを自覚する。

 彼は何も言わなかったが、バチッと目が合った時、頑張ってくださいねと視線で送ってくれた。それだけでパワーが沸いてくる。

「とりあえず乾杯でもしようか」

 全員にドリンクが渡ったところでお義父さんが言った。気持ちがちぐはぐな人間たちはそれぞれグラスを手に持ち、気が乗らない顔でシャンパンを見る。

「ああ、では…………乾杯」

 普通玲の結婚に乾杯する場面だろうに、口には出せなかったらしい。まあ、いいかと気にせず私は涼しい顔をしていた。シャンパンは冷えていて非常に美味しかった。置かれたカラトリーを見るに、コース料理が運ばれてくるっぽい。自宅でコース料理ってどうなってんねん。

 グラスを置いてしばし気まずい空気が流れる。とりあえず黙って待っていると、正面に座る楓さんが凄い顔をして睨んでいたのに気が付いた。にっこり笑って返しておいた。

「あー……この前のパーティーはお疲れ様だったな」

 お義父さんが話を切り出す。玲が答えた。

「ようやく舞香を会わせることが出来て嬉しかったです。早く妻を紹介したくてたまらなかったので」

 それに対し、早速お義母さんが厳しい声を挟む。
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