日給10万の結婚
「分かってますか? 窒息したら一分一秒も無駄に出来ないんですよ。それに見てたでしょう、あの時舞香以外はどうしていいか分からずおろおろしてる人間ばかり。死んでからじゃ遅い、あの時の舞香の働きは百点満点です。あの後、吉岡様からお礼の品も頂きましたし、パーティーに参加していた取引先の人たちにはみな賞賛されましたよ」

「一部の人間でしょう。苦言を言っている人もいましたよ、二階堂の妻ともあろう人があんな格好」

「なるほど、吉岡様のお子さんが亡くなってもよかった、と」

「そんなこと言っていません!」

 ヒートアップしそうなところで、部屋にお手伝いさんと圭吾さんが入ってきた。二人は前菜を手にしている。一旦会話が途切れ、沈黙が流れた。

 配給が終わったところで、静かに食事が始まった。大変おいしそうな料理があるのに、この状態じゃあ味は感じなさそうだ。家でカップラーメン食べる方がずっと美味いだろう。正面の二人は、ちらちらと私のテーブルマナーを見ている。

 私は慌てることなく、冷静に動いた。畑山さんと散々練習したことを失敗するわけにはいかない。成果を今出さなくてどうする。

 やや緊張したが、私は確実に食事を進めた。丁度前菜を食べ終える頃、お義母さまは皮肉たっぷりに言った。

「食事マナーはそれなりに出来るようですね」

「ありがとうございます」

「両親もいない貧しい家庭みたいですから、意外です」

 ぴたりと手を止めた。
 
 いつだったか玲は言っていた。多分私の事も調べられるだろうと。その時勇太があんなボロアパートじゃいけないから引っ越しまでさせた。彼の言うことは合っていたのだ。いつの間にか私の事は筒抜けらしい。
< 73 / 169 >

この作品をシェア

pagetop