日給10万の結婚
 でも彼はどうだろう。帰るだなんて期待させておいて、当日裏切るなんて。子供心に傷ついたに違いない。

 玲とご両親には溝があるなと分かってはいたが、これは思った以上に深刻そうだった。

 畑山さんが咳ばらいをする。

「無駄話をしすぎました。つい熱が入ってしまって。今日の分を始めましょう」

「あ、ありがとうございました、なんていうか玲の事を知れてよかったです」

「ええ。今度の玲さんの誕生日、祝ってあげてください」

「え?」

「え?」

「え……ああー! はいはい、そうですね、そりゃもう盛大に祝いますとも、はい!」

 慌てて笑顔を取り繕って答えた。畑山さんはホッとしたようにし、すぐに授業を始める。私は涼しい顔をしてそれを聞いていたが、心の中では大混乱だった。

 玲の誕生日が近いということか!!

 畑山さんは私と玲が契約結婚だなんて知らないので、当然玲の誕生日を把握していると思っているのだろう。嘘だ、私ちっとも知らなかった。玲の誕生日がすぐそばなのか。

 彼とは愛で繋がった関係ではない。とはいえ、ここ最近は奴がちょっとはいい人なんだと分かってきたし、書類上だけでも夫婦なので、誕生日のスルーはありえないと思った。

 それになにより……さっきの話を聞いちゃったらなあ。

 祝ってあげたい、って、思っちゃうじゃないか。


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