日給10万の結婚
「え……まじで姉ちゃん?」
アパートの扉を開けた瞬間、目を丸くして勇太はそう反応した。私の姿を見て、完全に固まってしまっている。私はと言えば、久々に会う弟の顔があまりに愛しくてかわいくて、ついその体を抱きしめた。
「勇太ー! 久しぶりい!!」
「おいおい……本当に姉ちゃんなのかよ」
「元気だった? 一人で生活大丈夫なの? ご飯食べてる?」
「別人じゃん……なんかいい匂いとかする、キモイ」
「もー寂しかったでしょ? 勉強順調?」
「会話が成り立ってねーんだよ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
玲にきちんと許可を得て、畑山さんのレッスンを休み、今日は勇太に会いに来ていた。彼が引っ越したアパートもまだ見た事がなかったので、訪問したいと思っていたのだ。
場所も治安がよく、セキュリティもしっかりしたところだった。中は広いとは言えないが、一人暮らしでは十分だろう。
中に入り小さなテーブルの前に座る。私は辺りを見回して言った。
「前のおんぼろアパートよりずっといいじゃん」
「だよなあ。家賃、二階堂さんが払ってくれてるらしい。俺は元々姉ちゃんが残して行ってくれた貯金があるから、何とかなるって言ったんだけどさ。その金は生活費とか、受験のためにとかに使えって」
勇太は感心したようにそう言った。勇太の引っ越しをしてくれた後、玲は家賃まで払ってくれているようだった。元々、勇太の大学費用のために貯めておいた貯金があるので、彼は当分生活には困らないだろう。
高校生で急に一人暮らしをすることになってしまった勇太だが、元々家事はやってくれていたし、しっかり者なので、あまり困っていないように見えた。それはそれで寂しい気もする。
彼は改めて私を見て感嘆の息を漏らした。
「いやでも姉ちゃん、まじで別人だって」
「え、そ、そう?」
「そりゃ身に着けてるものとかも違うけど……それよりオーラって言うか、そういうのが全然違う」
この一か月以上、畑山さんに教わったことは、ちゃんと身になっているらしい。私はへへんと鼻を高くさせた。
「やれば出来るのよ私は」
「それで、大丈夫なの? 二階堂さんってどんな人? 結婚生活は大丈夫?」
「思ったより全然大丈夫だよ。玲との生活は何も問題なし。あいての親が強敵だけど」
私は結婚してから起きた出来事を全て話した。勇太は口を開けっぱなしにして間抜けな顔で聞き続けた。今まで貧乏生活をしていた私たちにとって、信じられない生活だったからだろう。私だってまだ慣れ切れていないところがある。
話し終えると、勇太は長いため息をついた。