日給10万の結婚
「もしかしてそれ、ってさ」

「うん?」

「……いや、なんでもない。あー、でも上手くやってるみたいでよかったよ。俺は姉ちゃんが元々貯めといてくれた貯金もあるからやっていけてるし、勉強も頑張ってるからさ」

「そっか……ならよかった」

 私は目を細めて呟いた。勇太が元気ならそれでいい。最近はあまり会えてなくて勇太不足だけど、一人の方が勉強に集中できるかもしれないし、前のボロアパートよりは住む環境もよくなっている。全て玲のおかげだな、と感謝せねば。

 私はあっと思い出し、勇太に尋ねた。

「そうそう、今度玲の誕生日なんだって! ねえ、プレゼントとか何渡せばいいと思う? 私全然分かんなくてさ。同じ男目線で」

 私が真剣な眼差しで尋ねるも、勇太は呆れたように顔を歪めた。

「性別だけは同じだけど、俺と二階堂さんじゃ好みも何もかも違いすぎるだろ。参考にならないよ。ブランドものとかじゃないと駄目だろうし」

「やっぱりかあー……困ってるんだよねえ。どう祝えばいいのか」

 机に突っ伏して嘆いた。勇太は不思議そうに言う。

「ほら、一緒にいる……なんて言ったっけ、圭吾さん? に聞くのが一番じゃん。幼馴染なんでしょ?」

 言われて顔を持ち上げた。そうか、それもそうじゃん、なぜ忘れていたのだ。

 圭吾さんだったら玲の好みも把握しているに違いない。そもそも正確な誕生日の日も分からないので、彼に聞くのが手っ取り早い。

「そうじゃん!」

「いやなんで忘れたんだ?」

「そうしようそうしよう、圭吾さんに聞いてみるよ! 勇太ありがと、どうせなら喜んでもらいたいって思ってたからさー」

 ほっと胸を撫でおろした。強い味方を発見したので、これで一安心だと言える。でも圭吾さんっていつも玲と一緒にいるから、二人になれる機会なんてないんだよなあ。電話とかしてみていいかなあ。

 一人ブツブツと考える私に、勇太が顔を覗かせる。

「喜んで貰いたいって思うほど、の関係になってんだね」

「え? まあ、そりゃなんだかんだ玲のおかげで借金も何とかなったし、色々お世話になってるし……」

「ふーん、で、喜んでほしい、って?」

「まあ、口は悪いけど根は腐ってないのが分かったっていうか」

「ふーん?」

「なによそのにやにやした顔は」

 勇太は口角を持ち上げて笑っている。昔から変わらない、ちょっと憎たらしい顔だ。

「別に。誕生日、喜ばれるといいねー」

 そう意味深に言った彼に、私は首を傾げるだけだった。


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