夫婦ごっこ
第一章 片想いのプロ
「俺たち結婚するよ」

 痛い。痛い。痛い痛い痛い。いったい何度この痛みを味わえばいいのだろうか。いい加減慣れてしまえばいいのに、どれだけ受けてもこの痛みは変わらない。目には見えなくとも自分の内側が傷ついて、だらだらと血を流しているのがわかる。時間をかけて癒したとしても、彼らは容赦なく何度も傷つけてくるから、奈央(なお)の心は今にも失血死してしまいそうだ。それでもこの傷は決して悟られてはいけないから、奈央はその顔に笑みを張り付けて平静を装うのだ。

「そっかー。おめでとう。よかったね、由紀(ゆき)
「ありがとう、お姉ちゃん。お姉ちゃんに祝福してもらえるのが一番嬉しい」
「ありがとう、奈央。実は親への報告はまだなんだけど、二人で話して、奈央に最初に報告しようって決めてたんだ。入籍と式は一年後くらいになると思う」
「私が最初なんだ? それはありがとう。親も反対しないから大丈夫だよ。本当におめでとう。結婚式楽しみにしてるね」

 あー、醜い。なんて醜いのだろうか。こんなにもかわいくて愛しい妹に嫉妬しているだなんて、恥以外の何物でもない。妹の恋人に横恋慕しているなんて本当に愚劣極まりない。心から祝福してやれない自分が本当に大嫌いだ。

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