夫婦ごっこ
「ちょっと敦也、今の聞いた? ラブラブなんだけど」
「新婚なんだから当たり前だろう」
「でも、あの義昭くんだから。もう奈央ちゃんが一緒になってくれて本当によかった。義昭くんが自分の周りの人の話することなんて全然なかったのに、奈央ちゃんだけは違ったからさ。付き合ってもないのに結婚したい人がいるなんて言いだして、本当にびっくりしちゃったもん」
「え!?」

 奈央は信じられないという顔をして義昭のほうを見た。この人はなんて危ないことをしているのだ。慶子が言ったことは事実だが、そんな真実すれすれのことを言って、万一気づかれたらどうするのかと詰め寄りたくなった。慶子たちの前でそれを言うわけにはいかないから、目だけで必死に訴えてみたが、義昭はそんな奈央を楽しそうに見ていて、まったく悪びれる様子もない。奈央一人だけが肝を冷やしていた。

「奈央さんのことはどうしても手に入れたかったからね」
「ほら、これだもん。最初奈央ちゃんに会ったときは、あまり義昭くんのこと意識してる感じじゃなかったから大丈夫かなって心配だったんだよね」
「あー……はは」

 慶子がそう感じたのも無理ない。奈央は義昭のことをそういうふうには意識していなかった。それに慶子に変な誤解を与えないようにと必死に奈央と義昭のことから話題を逸らそうとしていたのだ。その気がないと思われていたとしても、それは奈央の意図通りだ。
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