夫婦ごっこ
 恋心を自覚したのはいつのことだっただろうか。もうずっとずっと前。目の前の二人がそれを自覚するよりもずっと早くにそうなったことは覚えている。

 西条奈央(さいじょうなお)徳永修平(とくながしゅうへい)と出会ったのは小学校に上がる前、まだ五歳のころだった。西条家の隣に徳永家が越してきた日、親に仲よくしなさいと言われて引き合わされたのが最初だった。

 修平は同い年だけれどとても小さくて、奈央はまるで弟ができたみたいな気分だった。この頃の奈央はお姉さん振ることが好きだったし、修平のことも由紀と同じようにかわいがってやろうなんて思っていた。でも、そんな思いはすぐに変わってしまった。修平はその小さな体格に反して、正義感に溢れるとても強い男の子だったのだ。

 当時、周りにいる男の子たちといえば、いたずらばかりして、女の子をいじめて喜んでいるような、どうしようもないやつらがほとんどだった。そうではない子もいたけれど、そういう子はたいてい大人しく目立たないように遊んでいたから、いつもいたずらっ子たちが幅を利かせていた。

 奈央は大人しく我慢するような性格じゃなかったから、正面から彼らに対抗していたけれど、引っ込み思案の由紀は彼らの格好の餌食だった。奈央はかわいい妹を泣かせてなるものかといつも一人立ち向かっていたわけだが、修平が越して以来、彼も一緒に闘ってくれるようになった。妹を守る仲間が増えたみたいで嬉しかった。

 自然と三人で遊ぶことが増えて、出会って一ヶ月もすれば随分と仲よくなっていた。お互いの家にもしょっちゅう行き来するほどの仲だ。修平はいつだってかっこよかったから、奈央が彼に惹かれたのはきっと必然だった。気づけば彼に恋をしてしまっていた。たぶん小学校に上がる頃にはもうそれを自覚していたと思う。

 誰かを好きになるというのは嬉しい反面、恥ずかしい気持ちも大きくて奈央は密かに修平を想い続けた。修平はいつだって奈央と仲よくしてくれたし、他の子たちよりもずっと奈央と一緒にいてくれたから、恋の苦しい部分なんてまだ知らなかった。ただただ楽しいだけだった。
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