夫婦ごっこ
第二章 準備は念入りに
 義昭から衝撃的な提案を受けてから三ヶ月が経過したが、奈央は未だにその答えを出せないでいた。

 その間も義昭とは何度も顔を合わせているが、彼は一切そのことには触れてこない。あまりにも何も言ってこないから、実はあれは夢だったのではないかと思ってしまいそうなくらいだ。

 義昭と過ごすのは変わらず楽しいし、このままなかったことにして今の関係をそのまま続けていたいと思ってしまう。でも、正面からはっきりと告げてくれた彼の言葉を無視するなんて不誠実なことはしたくない。いい加減答えを出さなければと奈央は少しの焦りを感じていた。

 そんな折、義昭から救援要請がやってきた。姉に食事に誘われたが二人だと気が滅入るから一緒に来てほしいというのだ。

 最初は友人との約束があるからとその場しのぎのことを言って断ろうとしていたそうだが、その人も一緒に連れてくればいいと言われてしまったがために、奈央に助けを求めてきたらしい。踏み込みすぎるのはどうかとも思ったが、自分も同じ状況だったらきっとつらいとわかるから、奈央はほとんど迷わずにその要請に応じていた。


「奈央さん。本当にありがとうございます。こんなお願いをしてすみません」
「何言ってるんですか。私たちはこういうときにこそ協力すべきでしょ?」
「そうですね。奈央さんがいてくれて本当に心強いです。奈央さんとの出会いなどはそのままを姉に話していますから、奈央さんは素のままで大丈夫ですからね」

 言外に義昭は素でいられないという意味を含んでいるのがわかった。やはり今日の誘いに応じてよかったと思う。自分の想いを隠して、嘘をついて、気づかれないよう振る舞うのはとてもつらいことだ。奈央がその場にいることで、少しでも義昭が素のままでいられればいい。つらい気持ちを少しでも忘れて楽しんでくれたらいいと思う。
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