夫婦ごっこ

　義昭と二人で待ち合わせ場所のレストランに来てみれば、とても朗らかな印象の女性に出迎えられた。彼女が義昭の姉・慶子(けいこ)らしい。とても明るくて誰とでもあっという間に打ち解けてしまうようなそんな人柄の女性だった。

　弟との時間を持ちたくて今日の食事に誘ったのだろうに、なぜか慶子は奈央にばかりを話を振ってきた。


「ねぇ、奈央ちゃんと義昭くんは趣味が同じなんでしょ？」
「はい。いつも一緒に謎解きイベントに参加してるんです」
「へー、いつもね。じゃあ、結構仲いいんだね」
「そうですね。たぶん、私が今一番仲いい人ですよ、生方さんは」
「そうなんだ。ねぇ、奈央ちゃんから見て、義昭くんってどう？　姉が言うのもなんだけど、結構かっこよくない？」

　なんだか話が変な方向に流れてきた気がする。恋心を寄せる人にこんなことを言われたら複雑な気持ちになるのではないだろうか。

　義昭は確かにかっこいいと思うが、それを素直に言って慶子が変な気を回す事態は避けたい。かといって、かっこよくないなんて言うのは失礼だろう。義昭が世間一般に見てそうであることは間違いないから、奈央は変に受け取られないようさらっと事実だけを述べた。

「かっこいいと思いますよ。女性からの視線すごいですし」
「やっぱり奈央ちゃんもかっこいいと思う？　それに義昭くんすごく優しいでしょ？」

　自分じゃなくて、周囲の女性がと仄めかしたのだが、慶子はなぜか奈央の気持ちだけを切り取ってきた。しかもさらに詰め寄ってくる。隣に座る義昭の心情が気になって仕方ない。このままの流れだと慶子がよからぬことを言ってきそうでどうにも落ち着かなかった。