夫婦ごっこ
「そうですね。優しすぎて心配になるくらいですよ」
「そう、本当に心配なの。人の面倒ばっかりで自分のことはいつも後回しなんだから。でも、今日はちょっと安心したな。こんなふうに義昭くんが誰かを紹介してくれるの初めてだから」
「そうなんですね」
「奈央ちゃんは特別ってことかな? ね、義昭くん」

 嫌な予感的中だ。どうも慶子は奈央と義昭をくっつけようとしている気がする。好きな人からこんなことを言われたらかなりきついはずだ。自分がこの場にいることが申し訳なくなってくる。

 慶子は先ほどから本人を前にして否定できないようなことばかり聞いてくるから、奈央も義昭もその通りだと頷くしかない。これ以上義昭の心を抉るのはやめてくれと思った。

「そうだね。奈央さんは特別だよ」
「もうこのまま義昭くんのこともらってやってよ。このままだと一生独身でいそうなんだもん。奈央ちゃんなら大歓迎だから」

 義昭の気持ちを考えると苦しくてたまらない。慶子に悪意がないから余計に残酷だ。今はとにかくこの嫌な流れを止めなければならない。奈央はそう思って当たり障りのない言葉を紡いでいた。

「……いやー、私なんて生方さんからしたら子供ですよー」
「そんなことないですよ。奈央さんは素敵な女性です」

 迷いなく発せられた義昭の言葉に驚いて、奈央は思わず義昭のほうへ顔を向けた。てっきり苦しい表情、あるいはそれを隠すような取り繕った表情をしていると思っていたが、義昭の顔には予想外に優しい笑みが浮かんでいた。

 その表情に奈央は違和感を覚えた。義昭は今の流れになぜか納得しているような雰囲気がある。どうにも義昭の心情がわからなくて、奈央は解散するまでの間ずっと義昭の表情ばかり気にしていた。

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