夫婦ごっこ
「詐欺なんて思ってないですよ。ちゃんと最初から信じてますから」
「……あのときの徳永さんの心配がよくわかりますよ。奈央さんはもう少し警戒心を持ったほうがいいと思います。私があなたに無体を働くために、作り話で近づいていたらどうするんですか?」
「いや、それはないですよ。だって、私の気持ちを見抜くなんて簡単なことじゃありません。同じだったからわかったんですよね? 信じるに値すると思ったんですよ」
「はあ……それでもよく知らない人の話はもっと疑ってかかるべきです。私が言うのもなんですが」

 本当に義昭が言うのも変な話だが、奈央のことをとても心配してくれているようだ。恋愛感情でなくともこんなふうに大事にされれば嬉しくないわけがない。慶子に紹介したのも彼の誠意なのだとわかった。

「ふふ、心配してくださったんですね。ありがとうございます。でも、生方さんの人柄を見て信用したんです。あんなふうに連絡先を交換したり、誘いに乗ったりしたのは生方さんだけですよ」
「それは喜ぶべきなのか、たしなめるべきなのか……私を信用してくださるのはとても嬉しいですが、ちゃんと用心はしてください」
「わかりました。ちゃんと気をつけます」
「はい、よろしくお願いします。話が脱線したので戻しましょうか。私の話を信じてほしかったという理由はもうわかってくれましたよね?」
「はい、まあ、それはわかりました。でも、直接会わせなくても他にも方法あったんじゃないですか?」
「いいえ、会ってもらう必要があったんです。もう一つ理由があるから。私は姉を安心させてやりたかったんです」
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