夫婦ごっこ
「本当に?」
「本当です。私、結構身持ちが堅いんですよ? 何しろこれが初デートですから」
「いえ、そこを疑っているわけではないんですが……」
「で、どうします?」
「はあ……まあ、いいか。互いに意識してないからこその発言でしょうし」

 言われて初めて気づいた。確かに本当に好きな人とだったら、こんなに軽々しく手を繋ごうだなんて言えるわけない。きっともっと意識してそわそわとしてしまうはずだ。

「確かに……きっと好きな人とは簡単に繋げないですね……」
「じゃあ、はい」

 義昭が手を差し出してくれたから、奈央はそこに躊躇なく自分の手を重ねて握ってみた。大人の男性と手を繋ぐことなんてないからなんだか新鮮な気分だ。義昭とだと手を繋いでもドキドキとはしないが、急に恋人らしさが生まれたような気がして、なんだか楽しくなってきた。

「おー。これはなかなか恋人っぽいですね」
「私はどちらかというと引率の先生気分です」
「ちょっと、生方さん! 年下だからって子供扱いしないでください」
「はは、冗談ですよ。さあ、お手々繋いで行きましょう」
「やっぱり子供扱いしてる」

 からかってくる義昭にちょっと拗ねてみせながらも、奈央は義昭とのその気軽なやりとりに心地よさを感じていた。本当に義昭の隣は居心地がよくて、奈央は恋人ごっこのことなんて忘れて素でデートを楽しんだ。
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