夫婦ごっこ
 イベント当日、会場に三人で乗り込んでみれば、一緒に組まされた相手は二人ではなく一人だった。きっと二人組と組むことになるだろうと予想していたのだが、組み合わせの関係なのか一人で参加していると思われる男性とチームを組むことになった。

「こんにちは。生方(うぶかた)と申します。よろしくお願いします」

 そのチームメイトは人好きのする柔らかい微笑みを浮かべている。初対面でも簡単に警戒心を解いてしまいそうなくらい優しい雰囲気のある人だ。

「西条奈央です。よろしくお願いします」
「西条由紀です。よろしくお願いします」
「あ、もしかして?」

 奈央と由紀を交互に見ながら問うてきたから、二人の関係性を訊きたいのだろう。

「姉妹なんです。私が姉で、由紀が妹です。奈央と由紀と呼んでください」
「奈央さんに由紀さん、ですね。ちなみに、私は生方義昭(よしあき)です。よろしくお願いします」

 下の名前で呼ぶように言ったからか、ご丁寧にもフルネームを教えてくれた。下の名前で呼んでほしいというよりは、奈央たちに合わせて自己紹介してくれただけだろう。彼の二度目の挨拶に合わせて皆でお辞儀をし合ったあと、修平が最後に自己紹介をした。

「徳永修平です。二人とは幼馴染で、由紀の婚約者です。よろしくお願いします」

 その紹介の仕方に胸がチクリと痛む。婚約報告から時間が経って、一人でいるときにはもう平気でいられるようになったが、改めて認識させられるとやはり苦しい。でも、それを誰にも知られてはいけないから、奈央はまたその顔に笑みを張り付けていた。

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