夫婦ごっこ
「皆さまお知り合いなんですね。よろしくお願いしますね」
「知り合いばかりの中だといづらいですよね。お連れの方はいらっしゃらないんですか?」
「はい、一人ですよ。でも、どうぞお構いなく。謎解きにはよく参加するんですが、同じ趣味の人間が周りにいないので、たいてい一人で参加しているんですよ」

 仲間だ。奈央はそう思って、先程まで沈んでいた気分を高揚させた。もちろん今までに参加したイベントでも同じような人には出会ってきたが、義昭ほどいい印象の仲間に出会ったのは初めてだ。

「そうなんですか? 私も同じです。今日は二人が来たいって言うから三人で参加しましたけど、私も普段は一人で参加することが多いんです」
「へー、女性で一人は珍しいですね」
「そうかもしれませんね。でも、一人で参加して、その場で知らない人と組むのも好きなんですよ」
「わかります。解き方を教えてもらうのも楽しいし、教えるのも楽しいんですよね」
「ですね。今日は生方さんがいらっしゃるから、私が教えてもらうことになりそうですね」
「いやいや、奈央さんも一人で参加されるほどですから、かなりの猛者ですよね? 協力してクリアしましょう」

 義昭もなかなかのヘビーユーザーらしく奈央が参加したイベントには義昭もほとんど参加していた。これまで出会っていなかったのが不思議なくらいだ。

 義昭は聞き上手なのか驚くくらい話したいことがたくさん出てきて、イベントが始まるまでの間、奈央はずっと義昭に話しかけていた。義昭は由紀と修平が謎解き初心者であることを考慮してか、所々で奈央の話を二人に解説して聞かせ、全員にとってとても居心地のいい空間を作ってくれていた。由紀と修平を前にして、奈央がこんなに楽しく話せたのは本当に久しぶりだった。
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