夫婦ごっこ
 イベント後、久美とゆめと別れた二人は当たり前のように手を繋いで歩いていた。


「義昭さん、今日はありがとうございます。紹介できてちょっとほっとしました。久美とは結構仲いいんですけど、それでも修平のことは話せないから、恋愛方面の話題はいつもはぐらかしてたんです。でも、義昭さんのことは堂々と話せるから嬉しかった。嘘をついているのには変わりないけど、大事な人ができたことは本当だから、思ったままを話せて前よりもずっとずっと楽なんです」

 本当の想い人のことを話せないことには変わりない。それでも今一緒にいる義昭が奈央にとって大切な人で彼が家族であることに違いはないから、奈央は義昭とのことを素直に語ることができる。直接会わせることには少し躊躇いがあったけれど、それも実際に会わせてみれば、本当にいつもの二人のままで大丈夫だったから一気に肩の力が抜けて安心したのだ。

「よかった。奈央さんが生きやすくなっているのなら、それほど嬉しいことはありません。そのための結婚だから」
「そうですね。義昭さんと結婚してから本当に嬉しいことばっかり」
「僕もですよ。今日も嬉しかったです。同僚の方を紹介をしてもらえて。また少しあなたの懐に入れてもらえたような気がしたから」
「義昭さんはもうとっくの昔に私の深いところまで入り込んでますよ?」
「そうですか? 僕としてはもっと素直に甘えてくれたら嬉しいんだけど」

 もう随分と義昭に頼っているのに、義昭はまだ甘えたりないと言う。実家にいる頃はずっとお姉ちゃんをしていたから、奈央はどうにも人に甘えるのが苦手なのだが、それでも義昭にはかなり甘えられていると思う。でも、彼の基準にはまだ満たないらしい。

「義昭さんは欲張りだなー。結構頼ってるのに。まあ、善処します」
「はい、よろしくお願いします」

 正直これ以上どう甘えていいのやらわからないのだが、義昭は本当にそれを望んでいるようだから、義昭の前ではもう少しだけ素直になる努力をしてみてもいいかもしれないと奈央は思った。

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