私があなたの隣にいけるまで、もうあと少し
翌日は班行動がメインだった。
あらかじめ班でどこに行きたいかを決めていて、最後が美ら海水族館になるようにすること以外、日中は自由行動だった。
明日もあるとはいえ、少しだけお土産を見たり、パインジャム作りの体験に参加したり、シュノーケリングも初めて体験した。
沖縄の海はそれはもうすごく綺麗だった。まさにエメラルドグリーンと表現しても良いくらいで、透き通る水に空の青がこれまた美しく写し出されていた。
私は一人、海岸沿いの塀に腰を下ろし、ただただ海を眺めていた。
友人達と一緒に歩いていたはずなのだけれど、気が付くとはぐれていた。原因は私がキョロキョロウロウロとしていたせいだ。
あとは最終目的地である美ら海水族館を目指すだけ。はぐれてしまったけれど、慌てるほどのハプニングでもない。友人には連絡を入れて、水族館で合流することにした。
すぐに水族館へ向かおうとしなかったのには、理由があった。
私はもう少し、この海を目に焼き付けておきたかったのだ。
地元に戻ったら、きっとこんなにも美しい海はもう見ることができないだろう。
心地のいい風と、過ごしやすい暖かな日差し、それに涼やかな波の音。私はそれらを、必死に五感に焼き付けていた。
私は小さい頃からピアノを習っている。
ピアノのレッスン教室で行われる今度の発表会で、私は同じ先生のレッスンを受けている友人と、二台のピアノでドビュッシーの「海」という曲を弾くことになっていた。
実際ドビュッシーは海を見て曲を作ったわけではないようだけれど、この素敵な沖縄の海で感じたものを、発表会で生かせたらな、と思ってのことだ。
部屋に戻ったら譜面をさらっと見ておきたいな。今日感じたことも忘れないように。
次にコンクールや発表会で弾く楽譜は、いつも持ち歩いていた。もちろん修学旅行にも持ってきている。
私は大きく息を吸って、海を感じ続けた。潮風が気持ちいい。
すると突然そこに、横から男の子の声が掛かった。
「どうした?体調悪い?」
聞き覚えのある声だった。私ははじかれるように顔を上げた。