妖帝と結ぶは最愛の契り
「平民は妖力がないからな。元より受け皿となり得ぬ。……だが、美鶴は異能を持っている。もしかするとそれが何らかの形で関係しているのかも知れぬな」
「そうですか……」

 結局美鶴が何故身籠ったのか分からないということだ。

 だが、分からないからこそ貴族の娘でも弧月の子を成すことが出来るのではないだろうかと考えるものが増えたらしい。
 その結果、とりあえず一人だけでも後宮に迎えろとうるさくなったのだとか。

「しまいには美鶴を弘徽殿に移すのを許可する代わりに、自分の娘を入内させろと言われたのだ」
「それは……」

 何と言えば良いのだろうか、と複雑な気分になる。

 自分を弘徽殿に住まわせなければ良いのでは? とも思うが、今では美鶴自身もそれを望んでいる。
 弘徽殿に移り、少しでも弧月の近くにいたいと。

 だから安易に引っ越しを止めようとも口に出来なかった。

「どんな姫が来ようと俺は美鶴以外を愛するつもりはない。美鶴以外を求めるとは到底思えない」

 左大臣たちにもそう伝えて諦めさせようとしたが、納得しなかったらしい。

「俺が女を大して知らぬからだなどと言って逆にもっと多くの姫を入内させろと言うのだ……」

 うんざりした様子に、その時の弧月の心労を案じる。
 そっと頬に触れ、少しでも癒されてくれないかと手のひらで温めた。
 すると弧月は穏やかな眼差しになり、自分の頬に触れている美鶴の手を包む。
 手の体温を感じるようにしばらく目を閉じ、ゆっくりと開いた。
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