妖帝と結ぶは最愛の契り
襲来
 夢見をした夜から三日。
 弧月は今、紫宸殿(ししんでん)にて本日入内する莢子を迎え入れる儀式をしている。

 その間美鶴は自身の殿から出ず、儀式が終わるまで大人しくしている様にと言われていた。
 少し離れた場所にある紫宸殿から雅楽(ががく)の音がわずかに聞こえてくる。
 普段ならば雅な音色に聞き耳を立てたくなるが、今はそのような余裕は無い。

 何故なら。

「お初にお目にかかる、弘徽殿の中宮殿。……いや、まだ更衣だったか?」

 衣擦れの音すら密やかに、見知らぬ藍色の髪の男が酷薄な笑みを浮かべ美鶴のいる弘徽殿に侵入してきたからだ。

 検非違使(けびいし)達は何をしてるのか。儀式の警護に集中しているとはいえ、外部の者に侵入を許すとは。
 ……いや、この男は内裏にも味方がいるらしいので逆に招き入れた可能性が高い。
 おそらく、莢子の入内自体この男が侵入する隙を作るために仕組まれたことなのだろう。

 男は他にも頭巾を被った供を二人連れ、許可もなく縁から庇へと入って来た。

 一つ一つの仕草は洗練され、ゆったりとした物腰は貴族のそれだ。
 一見質素だが、よく見ると上質な絹の狩衣に身を包んでいる。
 無遠慮に母屋にまで入り込む男の迷いのなさは、勝手知ったるという様子。
 男にとって弘徽殿は慣れた場所なのだと知れた。
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