妖帝と結ぶは最愛の契り
***

 土間で夕食の下準備をしていた美鶴の耳に外の騒がしさが届く。
 どうやら父が帰って来たようだ。
 母の言った通り夕刻前には帰って来れたらしい。

 出迎えた母と春音の明るい声も聞こえる。
 本来であれば美鶴も出迎えるべきなのだが、父はもはや自分を娘とは思っていない。

 少々野心家の父は、初めは美鶴の異能を恐れつつも出世のために利用できないかと考えていたようだった。
 だが予知は出来てもそれを回避することは出来ず、すぐに役立たずの烙印を押されてしまった。

『使える異能ならばまだ良かったものを……』

 諦めの溜息と共に告げられた言葉。
 その言葉を口にしたときが、父が自分を娘として見ていた最後のときだったのかもしれない。

 以後、父は美鶴をものとしてしか扱わなくなった。
 同じ家の中にいたとしても気にも留めない。
 おそらく死んだとしても、物が壊れてしまったのと同じような感情しか抱かないのだろう。
 それを寂しいとすら思わなくなった自分も、おそらく人としての心が死んでいる。

 どうせ呼ばれもしないのだからと料理を続けていると、珍しく父が美鶴を呼んだ。

「美鶴! 美鶴はいるか⁉」
「っ! は、はい!」

 少々苛立った、怒声に近い声が怖い。
 そのような声に呼ばれ行きたくなど無かったが、行かなければ余計に怒らせるだけだ。
 怒らせた分、手を上げられる確率も上がってしまう。
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