妖帝と結ぶは最愛の契り
 きっ、と冷たく恐ろしい金の目を睨み返す。
 そして怯まず声を上げた。

「この子は殺させなど致しません。この子は現妖帝・弧月様の御子。弧月様の妻として、御子の母として、何を置いても守り通します!」

 声は僅かに震えてしまったが、強い意志だけは貫き通す。
 足に力を込め、負けるものかと背筋をのばした。

「――っ」

 美鶴の凛とした様子に碧雲はわずかに息を吞む。
 だが、すぐに鼻を鳴らして吐き捨てた。

「ふん、平民がよく吠える。お前ごと殺してしまえれば話は早かったのだがな」

(それは、どういうこと?)

 まるで自分のことは殺せないというような言葉に軽く眉を寄せる。
 碧雲という男のことはよく知らないが、今見ただけでも平民の女一人を殺せない男だとは思えない。
 子を殺そうなどと言う男だ。妊婦だからという理由でもないだろう。

 美鶴の疑問に、碧雲は問いかけるまでもなく話し出した。

「内裏に入り込むために藤峰の娘・莢子の入内を推し進めた。入内の儀式の方に警備が集中している今の内に、その腹の子を殺すためにな」

 こうして身代わりを用意するくらいだ、勘付いていたのだろう? と碧雲は少々自虐気味に笑う。
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