妖帝と結ぶは最愛の契り
 南庭の中央には藤峰の姿があり、莢子が乗っているであろう牛車もある。
 嫁入り道具なども揃えているようだが、周囲の物々しい様子に戸惑いを見せていないことからも現状は藤峰にとってあり得ぬ事態というわけではなさそうだ。
 むしろ、藤峰こそが仕組んだことなのだろう。
 それが分かっていて、弧月はあえて問いかけた。

「さて、これは一体どういうことだ? 左大臣・藤峰、本日は其の方の娘が入内するのではなかったか?」

 問いに、藤峰はにこやかに答える。

「もちろん致しますよ。だが、莢子が入内するのは弧月様の後宮ではございません」
「ほう? では誰のだ?」

 さらに問いかけると、藤峰はすっと冷たく目を細め敵意を露わに声を上げた。

「碧雲様の後宮にです。莢子は碧雲様の中宮になるのだ!」
「はて? 碧雲は都を出たと思ったが?」

 美鶴の予知で碧雲がこの儀式の最中に内裏に忍び込んでくることは分かってはいたが、あえてすっとぼけて話しを続ける。

「お戻りになるに決まっているでしょう。妖帝となるのは碧雲様でなければならない。お前の様な狐に務まるわけがないのだ!」
「……口には気をつけた方がよいぞ?」

 妖帝である自分を“お前”などと呼ぶ藤峰に忠告する。……もう遅いかも知れぬが。

「構うものか。お前は本日をもって妖帝の座から降ろされるのだ、碧雲様の手によって!」

 話しているうちに興奮してきたのか、藤峰は面白いくらいに自らの悪事を話し始めた。
 左大臣として不本意ながら弧月に仕えていたこと。
 本心を隠し、碧雲が妖帝として都に戻れるように暗躍していたこと。
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