妖帝と結ぶは最愛の契り
妖の帝と異能の妻
(もふもふが沢山……)

 弧月の登場に余裕が生まれたからだろうか。
 美鶴は場違いにもそんなことを思ってしまった。

 だが仕方ないだろう。
 以前触れた絹糸の様な美しい毛並みのしっぽが三本から九本に増えているのだから。

(弧月様のしっぽは本当は九本だったのね……そういえば以前見せて頂いたときは力を抑えていると言っていたような)

 思い返しながらつい無意識にしっぽに手を伸ばそうとして、弧月の声に引き戻される。

「さて……この者達はなんだ?」

 軽く見回し、見知らぬ平民のことをまず問う弧月に慌てて答えた。

「あ、私の父と妹です。弧月様が来て下さったなら私はもう大丈夫ですから、炎を消していただけますか?」
「そうか。ならばやり過ぎるわけにもいかぬな」

 連れ戻されるのは困るし、変わらず自分のことを道具のようにしか思っていなさそうな父と妹にかける情は少ない。
 だが、酷い目に遭って欲しいとまでは思わないのだ。
 そんな美鶴の意図を汲んで、弧月は二人の袖についている青い炎を消してくれた。

 二人は炎が消えると、そのまま気を失ってしまう。
 その腕は少々火傷しており、やはり弧月の炎は普通の妖狐のものとは違うのだなと思った。
< 129 / 144 >

この作品をシェア

pagetop