妖帝と結ぶは最愛の契り
「美鶴、大門(だいもん)に行って落とし物を探してくるんだ。大事な春音への土産があの辺りで転げ落ちてしまったらしい」
「大門……」

 父の話では、今回何人か雇った運脚(うんきゃく)の一人が大門の辺りで一度転げて荷物を落としたらしい。
 土産を無くしたのはその辺りに間違いないとの事だった。

「紫の古路毛都々美(ころもつつみ)で包んである。必ず見つけて持って来い」
「……」

 少しだけ苦い思いを呑み込んだ美鶴は、何も答えず振り切るように家を背にした。
 覚悟は決めていたはずなのに、いざそのときが来てしまい多少なりとも動揺してしまったようだ。

(……父さんの言いつけだったのね。私が大門に行く事になったのは)

 美鶴は三日前に予知夢を視た。
 大門付近の小屋が火事になり、次々と燃え移っていく様を。
 そして、焼け落ちた柱の下敷きとなり呆気なく死んでしまう自分の姿も。

 基本的に家に引きこもっている自分がどうして大門になどいるのか分からなかったが、父の言い付けだというなら納得だ。

(……今、私が大門に行ったら死んでしまうと伝えたら少しは躊躇ってくれるかしら?)

 最後だからだろうか。
 無くなったと思っていた父への愛情を僅かにだが期待してしまう。
 だが、すぐにあり得ないと首を振った。

 予知は変えられない。
 おそらく、大門に行きたくないから虚言を口にしているのだろうと責められるだけになるだろう。

(変えられないのだから、もういい)

 あとは死に向かうだけだというのに、更に噓つきだと罵られたくはない。
 このまま何も言わずに別れよう。

 心とは裏腹に晴れ渡った青空を見上げ、美鶴は大路(おおじ)へと足を進めた。
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