妖帝と結ぶは最愛の契り
終
都の中ほどの小路を網代車がゆったりと通る。
牛飼童の他には質素な狩衣に身を包んだ公達が一人ついているだけの、都人には見慣れた風情の牛車だ。
だが、見るものが見ればその網代車は日常的に使われているものではないと分かる。
それに、供の公達もその物腰から下位の貴族でないことは知れたはずだ。
とはいえこの辺りの路を歩くのは平民ばかり。
貴族の屋敷も中級以下の下位のものばかりなため、気付くものはいなかった。
「……着きましたよ」
とある中級貴族の屋敷脇に並ぶ長屋。その中でも一回り大きな小家の前で止まった網代車に、供の青い髪の公達が声をかける。
すると屋形の中から衣擦れの音がして男が一人現れる。
明らかにお忍びといった風情の繁菱柄の狩衣に身を包んだ公達。
立烏帽子の中に隠れる髪は白金色で、その洗練された佇まいからも只者ではないと知れた。
通常ならばその公達だけが降りるものだろう。
だが、屋形の中からはもう一人おくるみを抱いた娘が降りてきた。
美しい顔立ちをしているが、貴族の姫が人前に出ることはない。
身なりも平民と同じように小袖のみであった。
だが、その小袖は明らかに上質な絹で、艶やかな黒髪も良く梳かれ手入れが行き届いている。
しかも先に降りた公達が娘をとても大事そうに気遣っていた。
何とも不思議な光景である。
牛飼童の他には質素な狩衣に身を包んだ公達が一人ついているだけの、都人には見慣れた風情の牛車だ。
だが、見るものが見ればその網代車は日常的に使われているものではないと分かる。
それに、供の公達もその物腰から下位の貴族でないことは知れたはずだ。
とはいえこの辺りの路を歩くのは平民ばかり。
貴族の屋敷も中級以下の下位のものばかりなため、気付くものはいなかった。
「……着きましたよ」
とある中級貴族の屋敷脇に並ぶ長屋。その中でも一回り大きな小家の前で止まった網代車に、供の青い髪の公達が声をかける。
すると屋形の中から衣擦れの音がして男が一人現れる。
明らかにお忍びといった風情の繁菱柄の狩衣に身を包んだ公達。
立烏帽子の中に隠れる髪は白金色で、その洗練された佇まいからも只者ではないと知れた。
通常ならばその公達だけが降りるものだろう。
だが、屋形の中からはもう一人おくるみを抱いた娘が降りてきた。
美しい顔立ちをしているが、貴族の姫が人前に出ることはない。
身なりも平民と同じように小袖のみであった。
だが、その小袖は明らかに上質な絹で、艶やかな黒髪も良く梳かれ手入れが行き届いている。
しかも先に降りた公達が娘をとても大事そうに気遣っていた。
何とも不思議な光景である。