妖帝と結ぶは最愛の契り
「ごめんなさい、ごめんなさい美鶴。いなくなるまで、あなたが大事だと忘れてしまっていた……ごめんなさい」
「私も、ごめんなさい。愛されていないと決めつけて、生きていたのに便りも出さずに……ごめんなさい」

 繰り返し謝る母に、美鶴もつられるように謝罪した。
 だが、今日は互いに謝るために来たわけではない。
 もう二度と会えなくとも、自分はちゃんと幸せを得たのだと知らせるために来たのだ。
 自分は幸せだからもう大丈夫だと。だから気に病まず、母も生きることを諦めないで欲しいと伝えるために。

「……母さん、私も子を持つ母になったのよ?」

 だから、その幸せの証を見せる。
 大事に抱いていたおくるみ。
 包まれた衣の隙間から、まだ小さい赤子の顔が見える。
 額に小さな角が見える、妖の赤子。
 弧月が受け継いでいる鬼の血が強く出た鬼の子だ。

「可愛いでしょう? 私の、大事な子よ。この子と夫の弧月様のおかげで、私は今とても幸せなの」

 だから、自分は大丈夫だと……穏やかに微笑んだ。

「母さん、私を産んでくれてありがとう。……おかげで私は幸せを知ることが出来たわ」
「あ、ああ……美鶴……幸せにしてやれなくて、ごめんねぇ」

 泣く母は、尚も謝る。
 だが、赤子の顔を覗き込みその可愛らしさにフッと表情が緩んだ。

「可愛いねぇ……美鶴、幸せになってくれてありがとう……」
「うん……」

 そうしてしばらく黙り込み、二人はただただ赤子を見続ける。
 だが、元々長居は出来ない。
 控えめに「美鶴……」と弧月の呼ぶ声がして、もう時間だと知らせてくれた。

「……じゃあ母さん、どうかお元気で。もう会うことは出来ないけれど、私はちゃんとこの黎安京(れいあんきょう)で生きているから」

 だから心配するなと告げ、美鶴は立ち上がり弧月のもとへ戻った。
 寝室を後にする前にもう一度母を見ると、眩しそうに自分たちを見て「ありがとう」と礼を伝えられる。
 名残惜しくはあるが、美鶴は最後に笑みを返し「さようなら」と家を出た。
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