妖帝と結ぶは最愛の契り
***

 帰りの牛車では、弧月は当然のように美鶴を背中から抱くような形で座り支えていた。
 少々照れるが、赤子も抱いている状態なので支えてもらえるのは助かる。

「……良かったのか?」

 牛車が動き出し暫くして、弧月がぽつりと零した。
 問いの意図が分からずただ見上げると、寂し気な表情が見える。

「そなたは俺といて幸せだと言ってくれるが、本当に良かったのか?……俺が番の印をつけなければ普通の平民として幸せになれただろうに……」

 碧雲が語っていた番の話。
 美鶴は特に伝えていなかったが、誰かから聞いたのかもしれない。

「小夜から聞いた。……無意識とはいえ俺の番の印のせいで異能が現れたのだろう? そなたはそのせいで家族から蔑ろにされていたのだろう?……俺のせいで――」
「弧月様」

 無礼ではあるが、弧月の言葉を途中で止めた。
 だが仕方ないだろう。それ以上を口にさせるわけにはいかぬのだから。

「確かに、異能があったから家族からは(いと)われておりました。異能がなければと何度も思いました」

 その恨みは未だ美鶴の中にある。
 おそらく完全に消え去ることはないだろう。
 だが。
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