妖帝と結ぶは最愛の契り
「番の印を刻んだのが無意識だったとしても、きっとそなたの魂に惹かれ選んでいたのだろう。愛しい運命の相手を……」

 愛を囁きながら、白磁の肌がゆっくりと近付く。
 目を閉じると、唇に柔らかいものが触れた。

 愛しさと幸福を胸に宿しながら、そういえば口づけの仕方も弧月に教わったのだったなと思い出す。

 唇が離れ目を開くと、弧月は微笑みながら「口づけも上手くなったな」と呟いた。
 自分と同じように初めてした口づけを思い出していたのだろう。

「そ、そうですか?」

 言葉を返しながらなにやら恥ずかしくなった美鶴は、照れ隠しのように赤子にまた視線を移した。
 すると美鶴の頬にあった手が移動し、赤子の頭を壊れ物を扱うように優しく撫でる。
 その指先が小さな角に触れた。

「それにそなたはこんなに立派な(おのこ)を産んでくれた。かわいい我が子……鬼の血を強く受け継いだこの子が生まれたことで、小うるさい者達も静かになった。本当に喜びしかない」

 襲撃してきたような過激派はあのとき捕えることが出来たが、まだ不満をくすぶらせている輩はいたらしい。
 だが、生まれた子が鬼だったことで弧月には確かに鬼の血が入っているのだと本当の意味で理解し大人しくなったのだとか。
 小夜や時雨から伝え聞いた話を思い出して、凄いなと思った。

 泣くか眠るかしか出来ない赤子だというのに、生まれてきただけで父を助けるとは。
 自慢の我が子である。

 だが、美鶴にとっては種族の問題など大した意味はない。
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