妖帝と結ぶは最愛の契り
 逃げ足の速さに驚きつつも立ち上がると、熱気をすぐ近くに感じた。
 見ると、まだ離れた場所にあった炎が美鶴の周りを取り囲んでいる。
 尻もちをついて立ち上がるという僅かな間で、火の手から逃げる術が無くなってしまっていた。

(やはり早すぎる)

 燃え移ったばかりの炎を見ると、まるでそこに直接風が送られているかのように燃え盛るのが早い。
 人為的なものを感じると思ったが、これは人の仕業とは思えなかった。

(人ではないとすると妖?)

 妖という事は公家の者なのだろうか。
 平民を守ってくれるはずの公家がこのようなことをするとは思いたくない。
 確かに横柄で平民を切り捨てるような者もいると聞くが、火をつけるとなると大勢が死ぬ。
 そこまでのことをする公家がいるとは思いたくなかった。

(ああ、でももう私には関係のないことだわ……)

 炎が美鶴を囲い、死が更に近付いたことで逆に冷静になる。
 自分はここで死ぬのだ。もう終わりだというのに、先のことを考えても仕方のないこと。
 ぼう、と立ち尽くしたままうねり狂う赤い炎を見つめる。

 見ている分には綺麗だとも思う。
 だが、この炎は自分の身を焼くものだ。
 熱いだろう、痛いだろう。
 そうは思うのに、どこか他人事の様にも感じる。
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