妖帝と結ぶは最愛の契り
 力の根源。心の内面。それらの奥深く。
 そうして最も深い場所に焦がれるような思いを感じ取る。
 だが、確かな形を得ようと集中した途端声がかけられた。

主上(しゅじょう)、夜分失礼致します」

 馴染みのある声に意識が引き戻される。

 掴みかけていた焦りの原因はわずかに指先を掠り離れて行ってしまった。
 焦がれるようなその思いは何だったのか。
 自身に眠る感情(もの)だというのに、離れてしまった途端片鱗すら掴めない。

 ふぅ……と弧月は小さく諦めの息を吐き、かけられた声に答えた。

「……時雨(しぐれ)か」

 (えん)から呼びかけてきたのは幼い頃から馴染みのある故妖(こよう)時雨という男。
 今代の帝である自分とは筒井筒(つついづつ)の仲であり、現在は側近として働いてもらっている。

「どうした? こんな時刻に。もう屋敷に帰って寝ているのかと思ったぞ?」
「お(たわむ)れを。主上が休まれていないというのに、どうして寝ていられましょうか」

 言葉の端々(はしばし)に責める色を感じ取り、苦笑する。

「ふっ……堅苦しい話し方はよせ。こんな夜中だ、聞く者はない」
「では率直に言わせていただきます。……こんな夜中まで仕事していないで早く寝ろ」
「くはっ」

 許した途端遠慮の無くなった物言いに思わず吹き出した。
 元々遠慮のない性格だが、許したとはいえ仮にも帝である自分にここまで砕けた物言いをする者はいないだろう。
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