妖帝と結ぶは最愛の契り
「ありがとう、ございます。ですがもうお捨て下さいませ。生きる価値のない命でございます」
「何?」

 助けてもらっても、またすぐに死んでしまうのだ。これ以上妖帝の手を(わずら)わせるわけにはいかない。
 だが、美鶴の言葉に弧月は気色ばんだ。

「俺が助けた命に価値がないと申すのか?」

 怒りの滲んだ声に血の気が引く。
 妖帝を怒らせてしまった。
 その事実に恐怖を覚え、反射的に美鶴は地に伏し額を地面にこすりつけた。

「も、申し訳ございません! そのような意味ではなく……」

 言い訳をしようとするが、異能のことを口にするのは躊躇われる。
 今までずっと気味が悪いと嫌悪の眼差しを向けられた。
 弧月の美しい紅玉の瞳に、怒りならともかくそのような感情を映して自分を見られたくない。

「……そういえば、先ほども気になることを言っていたな? 確か、予知と」
「っ⁉」

 そういえば、有り得ない事態に気が動転していてすでに口走っていたのだった。

「それに身なりにしては言葉遣いも丁寧ですね?」
「あ、それは……父が厳しくて」

 時雨の言葉には素直に答える。
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