妖帝と結ぶは最愛の契り
 美鶴の父は()われて故妖国に来た他国の商人だ。
 家も大きなものを与えられ、他の平民とは違うという矜持(きょうじ)がある。
 そのためか家の中でも言葉遣いや身のこなしは徹底していた。
 それは蔑ろにしている美鶴に対してもだったため、自然とこのような口調になったのだ。
 ついでに言うとあまり外に出ない美鶴は他の平民と接する機会も少なく、乱雑な口調の方が馴染みがなかった。

「……ふむ」
「これは、複雑な事情がありそうですね」

 言葉遣いに関して話しただけでも何かを察したらしい男二人にじろじろ見られて居心地が悪い。
 だというのに、もっと詳しい話が聞きたいからと弧月が乗って来た牛車に連れて来られてしまった。
 牛車の中に入るなど分不相応だし、ただでさえ今の自分はいつも以上に汚れている。とても居心地が悪かった。

「……さて、全て話すんだ」

 だが、美鶴の心情など気にも留めず弧月は話すよう促す。
 心を見透かすように真っ直ぐ見つめられ、美鶴は軽く息を吐き諦めた。

(例え嫌悪の目で見られたとしても、この方とはもう関わることはないのだし)

 何より自分は七日以内に死ぬのだ。細かいことを気にしても仕方ないだろう。
 と、ほぼ投げやりな気持ちで全てを話した。
 異能のこと、家での扱い、今日死ぬはずだったこと、何故か助かったが死の運命からは逃れられそうにないこと。本当に全てを。

「珍しいな、異能者とは」

 全てを話した後の弧月の感想はそんな一言だった。
 表情には軽い驚きが現れているだけで、嫌悪などはなかったことに美鶴はほっとする。
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