妖帝と結ぶは最愛の契り
妖帝の妻
 そのまま牛車に乗って密かに内裏へと向かう。
 きぃぎぃと車輪の音が響く中、美鶴は屋形の中で弧月と二人きりでいた。

 牛飼童はいるが、お忍びで来たため他の供は連れてきてはいないらしい。
 大門の火事もあったため、時雨は警護のためにと外に出てしまったのだ。

 牛車に乗るなど分不相応だと思っていた美鶴も共に下りようとしたが、時雨に困り笑顔で押し留められてしまった。

「貴女を秘密裏に内裏に連れて行かなければならないんだ、出られては困ります。それに、妖帝の妻となる方だ。尚更歩かせるわけにはいきませんよ」

(妻……ほ、本当に主上の妻となるのね)

 覚悟は決めたはずだが、人に改めて言われると気恥ずかしい。
 しかもその相手と牛車の中で二人きりなのだ。
 いくら異能持ちとして仕えるだけのお飾りの妻だとしても、緊張はしてしまう。

「どうした? そんな隅にいては転げ落ちてしまうぞ?」
「は、はい」

 弧月の邪魔にならないようにと隅に座っていたが、彼の言う通り入り口に近すぎる。
 座り直そうと軽く腰を上げると、車輪が小石にでも乗ってしまったのだろうか。がたんと屋形が揺れた。

「あっ!」

 体勢を崩し、本当に転げ落ちてしまいそうになる。
 だが、後簾(うしろみす)から体が出てしまう前に弧月に腕を掴まれ引き寄せられた。
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