妖帝と結ぶは最愛の契り
ぼすりと弧月の胸に飛び込む形で受け止められ、衣から煤の臭いの他に黒方の薫物の香りがする。
その落ち着いた香りに癒される余裕もなく、美鶴の胸の鼓動が一気に早まった。
「ふぅ……危なかったな」
近くで聞こえる低い声にもぞくりと心が震える。
思えば、異性とこのように触れ合ったことなどない。
近くに感じたことのある異性と言えば父だけであったし、抱き締められたのも最早遠い記憶の片隅だ。
近年では殴られたことしかなく、触れ合いとは呼べぬものだった。
それに母や妹にも触れてもらうようなことなどはなく、人の体温そのものが美鶴にとって未知の領域だ。
「あ、あのっ……申し訳ございません! もう大丈夫ですので、離してください」
衣の下の硬い胸板を感じ取り、その体温にどこか安心する。
だが、その安らぎを自分が得てもいいのだろうかと不安も同時に過ぎってしまった。
だから離してほしいと願ったのだが。
「いや、このまま支えられていろ。何やら危なっかしくて不安だ」
「うっ」
幼子を見るような目で心配され、言葉に詰まる。
いくら何でも子供ではないのだから危険なことはしない。
だが、今まさに落ちそうになったのだから説得力もないだろう。
その落ち着いた香りに癒される余裕もなく、美鶴の胸の鼓動が一気に早まった。
「ふぅ……危なかったな」
近くで聞こえる低い声にもぞくりと心が震える。
思えば、異性とこのように触れ合ったことなどない。
近くに感じたことのある異性と言えば父だけであったし、抱き締められたのも最早遠い記憶の片隅だ。
近年では殴られたことしかなく、触れ合いとは呼べぬものだった。
それに母や妹にも触れてもらうようなことなどはなく、人の体温そのものが美鶴にとって未知の領域だ。
「あ、あのっ……申し訳ございません! もう大丈夫ですので、離してください」
衣の下の硬い胸板を感じ取り、その体温にどこか安心する。
だが、その安らぎを自分が得てもいいのだろうかと不安も同時に過ぎってしまった。
だから離してほしいと願ったのだが。
「いや、このまま支えられていろ。何やら危なっかしくて不安だ」
「うっ」
幼子を見るような目で心配され、言葉に詰まる。
いくら何でも子供ではないのだから危険なことはしない。
だが、今まさに落ちそうになったのだから説得力もないだろう。