妖帝と結ぶは最愛の契り
***

「美鶴殿? 慣れぬ牛車に疲れましたか?」
「い、いえ……」

 妖帝の後宮である七殿五舎(しちでんごしゃ)に連れて来られ、牛車から下りると時雨に心配そうに聞かれた。
 だが美鶴は言葉を濁し大丈夫だと伝えるしかない。

(主上に抱き締められていたせいで疲れたとは言えないもの……)

「では時雨、俺はいくつか仕事を済ませてくる。美鶴のことは頼んだぞ」
「分かっております」

 疲労の原因である弧月は何事もなかったかのように時雨に指示を出すと、美鶴に向き直り柔らかな笑みを浮かべた。
 元結(もとゆい)が緩んでいたのか、僅かに解けた髪を耳に掛けてくれる。

「ではまた、後ほど」
「は、はい」

 後でまた会いに来てくれるということだろうか。
 これからどうすればいいのか分からなかったが、時雨の指示に従えばいいのだろうと思い頷いた。

 満足げに頷き返し、弧月は去って行く。
 その後ろ姿を数拍見つめてから指示を仰ごうと時雨に目を向けたが、彼は何に驚いたのか目を丸く見開いていた。

「……主上が女性に、笑みを向けた?」
「時雨様?」
「あ、いや。とりあえずついてきてください」

 はっとし歩き出した時雨に付いて行くが、彼は驚きから立ち直ったわけでは無いようで何やらぶつぶつと呟いている。
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