妖帝と結ぶは最愛の契り
「身内以外には思わせぶりな態度は取らないと言っていたのに……どんな心変わりだ?」

 小さな声でもその呟きは聞こえていたが、どういうことなのかも分からないため美鶴はただ黙って薄暗くなった内裏に足を踏み入れる。

 妖帝の妻となり、この後宮にて一生弧月に仕えるのだ。
 あまり自由はないだろうが、もとより自宅に引き籠っている様な状態だったので大して変わりはないだろう。

 それに、弧月は自分の予知の能力を上手く使ってくれる。
 運命をねじ伏せると言われる妖帝は予知で視た不幸な未来を変えてくれるのだ。
 そんな方の力になれるというならば、これほど嬉しいことはない。

 今までとは違う、貴族の世界。
 人間と妖というだけでも違うその未知の世界へ、美鶴は覚悟を決めて足を進める。

 そうして時雨に付いて行った先で一人の女性と引き合わされた。
 艶やかな緑の黒髪に、さわやかな風を内包した透き通った青の瞳。
 十二単を着た明らかに高位の女官に美鶴は少々気後れしてしまう。

「小夜、この娘――美鶴殿を宣耀殿(せんようでん)へ。詳しいことは後で話すが、更衣(こうい)として弧月様に仕える娘だ。身綺麗にしておいてくれ」
「更衣で、宣耀殿へですか?」

 美鶴より少し上に見える小夜と呼ばれた女性は訝し気に眉を寄せたが、すぐに表情を取り繕い了承の返事をした。
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