妖帝と結ぶは最愛の契り
「……美鶴?」

 一度聞けば忘れることのない声に、美鶴は頭を下げる。

「はい、お待ちしておりました。主上」

 今日から主となった相手に、美鶴は自分が知りうる最上の礼を持って接する。
 だが、それを向けられた当人は苦笑いを浮かべていた。

「頭を上げよ、そう(かしこ)まらなくてもよい」
「は、はい」

 畏まるなと言われても、それはそれでどうすればいいのだろう?
 戸惑い顔を上げるが、そうして目に映った男の姿につい見惚れる。
 薄暗い中でも紅玉の瞳はとても印象的で、筋の通った鼻や唇は整った輪郭の中に完璧に配置されていた。
 月光に照らされた白金の髪は白く輝き、人ならざる美しさに魅入られる。

「……美しいな」
「っ! え?」

 自分が相手に向けていた思いを逆に言葉にされ戸惑う。

(美しい? え? 私がということ? 主上ではなく?)

 混乱していると、すっと近付いた弧月は美鶴の髪をひと房すくい取った。

「可愛らしい顔立ちをしているとは思ったが、身綺麗にしただけでこれほどとは……俺の妻として申し分ない」
「あ、ありがとう、ございます……」

 自分よりも確実に美しい男に言われて否定したい気持ちが湧く。
 だが、妖帝の言葉を否定して先程のように怒らせてしまってはならないと礼を言うに留めた。
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