妖帝と結ぶは最愛の契り
「……美鶴よ。こうして早急に連れて来てしまったが、そなたは家の者に妖帝の妻となったことを知らせたいか?」

 弧月の美しさにあてられ鼓動が早くなっていたが、両親のことを口にされすっと冷静になる。

「……いいえ、私はあの火の中で死ぬはずだったのです。そのまま、家の者には死んだことになさって下さい」

 もとよりいてもいなくても構わないというような扱いをされていたのだ。あの家に自分が死んで悲しむ者はいないだろう。
 それに、父は野心家でもある。
 大それたことをしようとは思っていないだろうが、娘が妖帝の妻となったことを知れば何らかの利を求めてすり寄ってくるに違いない。

「もし知られれば、きっと主上にご迷惑をおかけしてしまいます」

 弧月は多くは聞かず、「……そうか」とだけ口にすると髪を離しその大きな手の平で美鶴の頭を撫でた。

「っ……」

 慈しむような優しい手の平に、気恥ずかしさと喜びが沸き上がる。

(……温かい)

 助けられたときにぽんと乗せられたときも思ったが、弧月の手は美鶴に安心を与えてくれるのだ。
 ここにいてもいいのだと、安らげる場所なのだと思わせてくれる。
 そのまま引き寄せられて抱き締められた場合は安心どころではないが、こうして頭をなでてくれている間はただただ安らげる。
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