妖帝と結ぶは最愛の契り
(そうね。だから私は、このお方に仕えたいのだわ)

 決意を再確認し、弧月を見上げる。
 強い意思を宿した紅玉の目は、美鶴自身をも強くしてくれるように思えた。

 頭に乗っていた手がするりと下りてきて、顎を捕らえる。
 弧月のされるがままでいる美鶴は、じっと彼の目を見た。
 赤い瞳の奥に見たことのない炎を宿した弧月を見続けていると、美しい顔が近付き、唇に彼のそれが触れる。
 そうなるまで美鶴は微動だにしなかった。
 ……いや、出来なかったというべきか。

 弧月の瞳に捕らわれて動けなかった。
 近付き、唇が触れ、その柔らかさに喉の奥から悲鳴が出てきそうでそれを抑えるのに精一杯だったのだ。

「……美鶴、こういうときは目を瞑るものだぞ?」
「ぅえっ⁉ は、はいっ」

 呆れた声に失敗してしまったと焦る。
 慌てて瞼を閉じると、また先程と同じ柔らかなものが唇に触れた。

「……んっ」

 先ほど抱き締められたときよりも触れている個所は狭いのに、どうしてこうも鼓動が早まってしまうのか。
 目を閉じたことで唇の感覚が強くなってしまったのだろうかとも思うが、何かもっと別の理由な気もした。
 何故なのかは分からなかいが、何度も触れる唇は優しく美鶴の中に熱を灯す。
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