妖帝と結ぶは最愛の契り
(だが、俺は鬼ではない)

 普段は妖としての姿を隠しているため今は平民の人間と似た姿をしているが、本来の姿は鬼とは似ても似つかない。

 それを心苦しいと思ったことはないが、鬼でない故に弧月を妖帝として立てることを不満に思う輩もいた。
 その多くが歴代の妖帝に仕えていた重鎮(じゅうちん)達だ。
 彼らが弧月以外に妖帝に立てたいと思う存在がいるのも不満が出ている要因だろう。
 そしてその重鎮達の手は下級貴族にも(およ)んでいる。
 大事な案件を他に任せるわけにはいかないのはそのためだ。

 信用出来る人材は地道に作っていくしかない。
 分かり切っている結論を思い出し、深くため息をついた弧月は切り替えるように未だ不満顔の時雨に問いかける。

「それより、こんな時刻にどうした? まさかそんなお小言のためだけに来たわけではあるまいな?」
「まあ、小言も用件の一つだが……起きているならば早く知らせた方がいいかと思ってな」

 本題を言えと促した弧月に、時雨は表情を真剣なものに改めた。

碧雲(へきうん)の手の者が(みやこ)をうろついてると報告を受け探らせていた件だ」
「碧雲……」

 碧雲の名に弧月の表情も引き締まる。
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